ローリーマイル
 

No.8
2003/04/17 (Thu)

第1レース  この日は早朝05:15起床。初めて携帯のアラームに頼ることとなったが止めようと手を伸ばしたところベッドから落ち一気に目が覚める。寝相が"あまり"いいとは言えないワイはやはり布団でないと・・・。連日の行脚で疲労のピークかと思いきや、昨夜の試合終了以来言わばトランス状態に陥っていたワイには寝不足も脚の痛みももはや何も関係がなかった。ヘスキーは時間通り06:30に朝食を運んできた。07:00過ぎ、S氏に最後の別れを告げるべく部屋を訪れるがなんとホテル前まで見送りをしてくれた。ホントに感謝感激、これから孤独の戦いに挑む者にとってはまさにありがたいことだった。

 07:30、2日前に下調べをしたリヴァプールストリート駅に到着。右往左往するも窓口の兄ちゃんとやりとりをしてニューマーケット駅までの片道切符をゲット。 国鉄片道18.4ポンドってのは普通の電車であることを考えると確かに高い。発車ホームも無事見つかりひと安心したワイは駅の外に出てプレタ・マンジェでサンドウィッチと水を購入する。このプレタ・マンジェは最近日本進出を果たしたイギリス発のサンドウィッチショップで恵比寿や飯田橋などにも店があるようなので食べる機会があったらぜひ寄ってみて欲しい。普段サンドウィッチなど口にしないワイでも美味しく食べられるボリュームたっぷりの代物だったから。駅にあった有料トイレ(20ペンス:40円)も体験しいよいよ乗車の時を迎える。08:18発。先頭車両の最後方の席に落ち着くも、その改札から一番遠い車両には乗客がわずか3人しかいなかった。ロンドンから進むこと20分ほどでもう景色はがらりと変わる。途中駅はどれも駅の周辺だけはかすかに街並みが広がっているものの発車して少し経つともう見渡す限り平原が広がり始めるという具合だった。 プレタマンジェ・サンドウィッチ英国の車窓からところどころに馬や牛が放牧に出されていたりもした。日本と違って山がほとんどなく高低さがないせいか、地平線の彼方まで見渡せるところに違和感を感じたような気もする。先ほど買ったサンドウィッチを片手にレーシングポスト誌で予習に励む。ただ、手が真っ黒になるのはどうにかならんもんかのう。09:40、およそ1時間半弱でケンブリッジ駅に到着。ここで20分の乗り換え待ちをしてひと回り小さな電車で2つ目の停車駅のニューマーケットに向かう。電車からちらっとミレニアムスタンドらしきものが見えた気がしたがそれが本物かどうかはまだわからなかった。この電車に乗り換えてからはもう辺りは一面牧場の放牧地オンリーという感じだった。車掌の切符拝見を受けいよいよの気配漂う中、10:30電車はニューマーケット駅に停車する。

ニューマーケット駅 10人ほど降りたと思うがみな車を待機させていたようでワイが標識の写真を撮っている間に早々とだれもいなくなってしまっていた。駅舎も改札もないただのスペースにワゴン型のタクシーが1台だけ止まっていたがまず帰りの時刻表を見つけメモを取ることに。夕方までは少なくとも1時間半に1本は出ていることを確認し安心したワイは昨日入手した地図を頼りに街の中心部まで歩くことを決めた。 タタソールズ駅からもう5分ほどでタタソールズの看板を見つける。広い駐車スペースの奥に建物が見えたがおそらくそこで今夜『タタソールズブリーズアップセール』が開かれるのであろうと思われた。歩くこと20分ほどで街の中心通り、T字路の突き当たりに出た。地図は持っていたもののそれは(ケンブリッジまでをも含めた)広範囲の物だったため街の全貌はまだわからなかった。左に行けば競馬場だというのはわかっていたが第1レース発走が13:40で時間もたっぷりあったので右側の栄えていそうな方に行ってみることにした。 ハイペリオン像ナショナル・ホースレーシング博物館進んですぐのところに馬の銅像を見つけた。近寄ってみると『ハイペリオン』とある。それで後ろの建物がナショナル・ホースレーシング博物館だということが理解った。隣りにあったショップ&喫茶店らしき建物に入ると競馬の成り立ちから現代に至るまでのすべてを辿ったようなグッズの数々がワイを出迎えてくれた。いろいろ吟味したのち『a concise history of BRITISH HORSERACING』というイギリス競馬史の本を購入することにした。2ポンドと格安だったことが決め手だった。博物館内も見たかったが入口の説明書きを読んだところガイド付きのようだったのでやめてしまった。言葉のわからない中でのマンツーマンのプレッシャーは相当だったろう。その後通りの突き当たりにあった時計台まで進むも特に先には何もなく折り返すことにした。 ニューマーケットの街並みラドブロークス社ラドブロークス店内今日も引き続き暑い。脇道に逸れるとスーパーのマークス&スペンサーやブックメーカーとしてはメジャーなラドブロークスの店舗があったので興味本意で中に入り写真を撮ったりもした。そうこうしているうちに時刻は11:30。当初はタクシーで行こうと思っていたが時間があるので歩いてのんびり競馬場に向かうことにする。先ほどのT字路を通り過ぎ今度は左の道に進路を執ると上り坂が待っていた。国道というだけあって通りに車は絶えないがこの炎天下の中歩道を歩く人はごくわずかしかいない。途中厩舎ではないにせよ、馬房が2,3軒あった。馬がごく普通に日常生活に関わっていることが強く実感できた。

市街地からは20分ほど、坂を登りきると一気に視界が開け遥か彼方にミレニアムスタンドの姿が浮かび上がった。まさしく電車で見たアレだった。 いよいよ・・・ローリーマイルへようこそ駐車スペーススタンドに平行する形で直線コースが引かれているため左の写真に映るこのスペースは言うなればただの空き地である。そして右の写真のスペースは競馬場の裏側ということであくまでそのすべてが駐車場と言っていいと思う。遥か向こう、地平線の果てにようやく厩舎と調教場があるのだった。徒歩で訪れるヤツなどいるわけもないようでアスファルトの車道の他には馬道しかない。そこを独りとぼとぼと歩いて行ったのだが行き交う車中からこの奇異な東洋人は一体どんな目で見られてたんだろう・・・。並木道に沿って歩くこと15分、競馬関係者・メンバーズ(お偉いさん)・一般人の3方向への分岐を指し示す看板の下に誘導のおじちゃんがいた。「歩いて行ってもいいんか〜?」みたいなことを叫びやり取りをするが明らかに会話になってないような。気にせずさらに20分ほどの直線を歩くとJockey・Trainerゲート、Membersゲートを過ぎてようやく一般用ゲートにたどり着いた。見た目は日本と変わらず4つの窓口におばちゃんが待ち構えているスタイルだった。どこに行こうか迷う間もなく前に立っている案内役の2人のオヤジに囲まれそうになったのであえなくさらに道の突き当たりに見えた仮設式のトイレに避難することに。「おいおい、どこを通過すりゃいいんだぁ」と半ばパニクっているところに外人がドアをノックしてきたため落ち着きを取り戻す間もなく強制的に現実に引き戻された。ウロウロしているのも怪しいので覚悟を決めて突入を試みる。左端の窓口に行きあれやこれや会話するとそこは学生&21歳以下の窓口で「大人はあっちよ」とおばちゃんが親切に教えてくれ、やっと入場券が買えた。しかしその額なんと12ポンド(2400円!)。日本で見たニューマーケット競馬場のサイトでも入場券が買えるようだったしおそらく常連客は格安な年間パスポートか何かを持っているんだろうと思われる。じゃなきゃ高過ぎるで、これ。現にワイが入口付近であれこれやっている間にもちらほらと客が訪れていたのだがここの窓口を通ったのはわずかに1〜2人程度だったと思う。

 いざニューマーケット入場ナリ!入ってすぐのところでレーシングプログラムを購入。こちらのが有料なことは知っており2ポンドかかった。ただ日本と違うのは出走馬の紹介だけではなく予想家の個人予想などもしっかりと載っている点である。ある意味レーシングポスト誌などなくても事足りる、と言いきってもいいと思う。しっかりと地に足を付け歩み始めるももはや興奮と感動を抑えることはできなかった。高校2年の春、たまたまチャンネルを回したBS−1で世界の競馬・グランドナショナルを見て以来ずっとずっと想い待ち焦がれていた海外競馬への第一歩が今自分の視界いっぱいに広がっているのだ。夢心地だった。アドレナリンの分泌が止まらない。 ミレニアムスタンドパドック全貌スタンドもある。パドックもある。が、ここは日本ではない。ホントにアンビリーバブルな気分だった。ワイの行く手を遮る物などもはや何もない、とばかりにズンズン突き進んでいき手頃な案内板を見ていると何やら警備員の目がずっと自分に注がれているのに気付く。「なんや?」と目を合わせると「Excuse me」と話し掛けられた。自らの胸のバッチを指差している。すぐに気付いた。喜び勇んだワイは行き過ぎてメンバーズオンリーの区域にまで踏み入っていたのだった。言い訳しようと思ったが聞いてくれそうもないのでアイムソーリーと無抵抗で逃げ帰った。10mほどフライングしていたようだが、入口の係員ちゃんと止めてよとすがる思いにもなった。

 気を取り直して今度はスタンドを通過していよいよ馬場に出てみることに。 果てがない・・・ゴール板ミレニアムスタンドブックメーカー高みから眺めても先は見えない・・・もはや言葉は要らない。見渡す限りの平原を切り裂くように延々と柵が続いている。1800m先にあろうはずの左カーブなど肉眼で見えるわけもなかった。この馬場をニジンスキーが、ダンシングブレーヴが、そして可憐なボスラシャムが悠然と駆け上ったことを思うと目頭が熱くなる思いがした、かどうかは覚えてない。建物は左手の豪華なのが新設されたミレニアムスタンドで右は関係者およびVIPルームだろう。スタンド前には各ブックメーカーの売人と専用機械がそれぞれ20機ほど備えられていた。まだ第1レースまで時間があったので人影はまばらである。ベンチに座り明日を見つめながらしばらく放心状態だったがスタンド内の探索に向かうことにした。 バー?ビール片手に陽気に話す外人の隣りでとりあえず腹ごしらえとホットドックを抓むワイ。バーか何かにいるようでとても競馬場にいるとは思えない雰囲気だった。マークカードと馬券の買い方マニュアルをゲット。それによると単勝(WIN)・複勝(PLACE)とそれに準ずるイーチウェイ(EACH-WAY)馬券はマークカードがなく窓口で直接口頭で買わねばならないらしく、そんなの聞いてないよ〜と念入りに予習に励まざるを得なくなった。

 うっかりしていたがモニターでは1Rの出走各馬が映し出されていた。慌ててパドックに向かう。 装鞍所パドックヨーロッパでは往々にしてパドックに隣接する形で装鞍所があり鞍を付けるところから見ることができる(大井なんかもそうかな)。左写真の左奥に鞍装着中の馬が映ってる。ちなみに中央の馬の後ろに見えるのは名馬・ブリガディアジェラード像(ギャロップレーサーで一躍有名馬になった!?)。鞍を付けた馬はある程度時間が経つとそのままパドックに流れていく。日本は左回りだがこちらのパドックは右回り。ロンシャンなんかもそうだからおそらくヨーロッパ共通なんだろうと思われる。 クレイヴンS良く見える馬も何も、筋骨隆々でみんなオスカーシンドラーとかストラテジックチョイスにしか見えんで。第1Rを制したのはローリーマイルの成績No.1を誇るK.ファロンの馬。1日全勝を期待してデットーリの単勝を狙うも連に絡まず。1200mのスタート地点は何とか確認可能だった。第2Rはなんと本日のメインであるクレイヴンSが早々のオンエアー。レーシングプログラムによるとメインが2Rで準メインが3R、その次が1Rという構成のようだ。レースは全部で7つあったがその第3R終了後も続々と人が詰め掛けていたようでレースを見に来るという目的の他にもホントに社交場として競馬場が成り立っているんだなぁとしみじみ関心するひと幕だった。当初、3日前に買ったレーシングポストでは15頭以上が登録していたこのクレイヴンSだったがフタを開けてみればわずかに7頭立て。レーシングポストの記事ではこの時点でのブックメーカーの英国2000ギニーオッズ・2番人気に推されていたTrade Fairを始め多数の馬が雨の降らない硬い馬場を嫌って回避してしまったようだ。ひょんなことからスクラッチの、観客側としての怖さを知った。日本なら雪でダート替わりしようが強制出走なのになぁ・・・残念。今度は便乗してファロン騎乗のサターンという1番人気馬の単勝を買ったが直線(あ、ずっと直線だわ)終い伸びずに4着。勝ったのは伏兵で、デットーリが2着に穴を連れてきて馬券は荒れたようだった。マイルになるともうほぼスタート地点は見えない。ターフビジョンもあるにはあるが馬場のこの広さに比して府中の1/3くらいの大きさではさすがに物足りなさは否めない。ただ、周りの観客の見方はスタート直後は関心が薄く残り400m辺りからジワリジワリとヒートアップしていっていたように見えた。その後第3Rをスタンドの高みから味わい満足したワイは暑さと帰りの電車もやはり気になるということでまだ15:00だったが帰途に付くことにした。

スケールが違う・・・ 名残惜しくも入場口を出てみてビックリ。駐車場の一番奥に小型飛行機がごく自然に停めてあった。スケールが違い過ぎる・・・。タクシーが止まっていれば乗るところであったがあいにく見当たらず停車場所があるのかどうかもわからなかったため帰りもまた辱めを受けるがごとく先ほど通った馬道を戻る。全く英国王室御用達のブーツでやっていいことと悪いことがあるというのに。しかしそのおかげでこんな手の届く距離で英国馬を観察することができた。 汝、何を物思うか?未勝利クラスかな?ローリーマイルの看板も景色も徒歩でなければのんびり味わい写真に収めることはできなかったわけだし。要所要所で時間を潰しながら幾人かの外人と共にホームで待機していると16:27、およそ定刻通りにやってきた電車に身を任せ車内で車掌から切符を買い一路ロンドン市街を目指す。競馬場からの帰りの電車は行きの緊張感はどこへやら、もう府中からの帰りと気分は同じだった。馬券は外したがそこに焦燥感はなかった。我が物顔で席に収まる。到着時刻は18:10頃でうまくいけばオペラやミュージカルの当日売り半額セールに間に合う時間帯だった。せっかくだからこの旅最後のイベントは本場のエンターテイメントで締めるか、という意識もあり劇場が集まるピカデリーサーカスまで実際行きはしたのだが結局チケットを買うことはなかった。 ユーロスター独りになりポジティヴさが欠けたからなのかもしれないがまあそれでよかった。閉店間際のショップをひと通り巡った後、何を思ったか地下鉄に飛び乗るワイ。降りたのはウォータールー。そう、ちょうど初日のほぼ同じ時刻に我々4人はここにいた。あれから丸4日が経過し、長くて短い夢から覚める瞬間が刻一刻と近づいてきていた。感慨深くなるなと言われようともそれは無理というものだった。前回撮れなかったユーロスターの写真をしっかり収めあの日と同じように駅構内の巨大時刻表を見上げると、この瞬間イギリスで起きた連日の出来事が一斉に頭の中を駆け巡り何か胸に込み上げてくるものを感じた。売店で発見したバニラ風味のコカコーラを購入し我が街ハマースミスに戻る。イギリスでの最後の晩餐はマックだった。

本日ゲットしたアイテム

 


〜 えぴろーぐ 〜

 帰国から今日でちょうどひと月、ようやく終わりを迎えることができました。先週末久々に実家に戻ったところ「こんなの誰が読むの?」とその膨大な量をウチの○母に酷評されたりもしましたがここまで付き合っていただいた皆さんにはホント感謝してます。旅最中の些細なメモ書きが深い思い出と絡み合ってここまでデカくなるとは当人も全く予想していませんでした。拙いながらも私の人生観を揺るがす一大イベントだったことは文面からわかるかとは思いますが最後にイラストで今の心境を表してみることにしたのでご覧ください↓。タイトルは「人はここまで変われるんです」ってとこでしょうか。ホントにありがとうございましたm(_ _)m

2003/05/20(Tue) バイ男